主な研究内容
高濃度電解質水溶液の物性及び構造
 液体材料の中で最も広くかつ多量に用いられている電解質水溶液は単純な電解質−水の2成分系ではなく、分子性集合体の性格の強い水とイオン性集合体である電解質との特異な組み合わせであるといえます。水溶液の性格、つまり構造や物性は均一系であるにもかかわらず、その組成によって大きく変化する要因になります。
 我々は、通常、均一と考えられる水溶液を局所的なミクロな異相共存系として着目し、組成の相違による挙動の変化を水−水間相互作用(水素結合)、水和構造、イオン対もしくは錯体形成等の局所構造の量的、質的変化として、とらえてきました。研究初期には、電気化学的手法、分光学的手法を駆使し、主としていわゆる高濃度電解質水溶液の水和構造とイオン伝導、気−液平衡挙動(蒸気圧)等の諸物性との関連について検討し、古典的な水和構造の解明のみならず、イオンの輸送現象、相平衡挙動との相関の解明に様々な高濃度電解質水溶液の新たなアプローチの手法を手がけています。
 また高濃度希土類イオンやアルキルカルボン酸などの両親媒性イオンの水溶液に関しては、高濃度領域におけるイオン間相互作用がもたらす新たな溶存種の生成機構の解明を行うとともに、超音波物性、界面張力測定等から、物性の特異な濃度依存性を見出し、X線回折、ラマン散乱測定により、水溶液中における高次構造の存在を示唆してきました。これらの構造・物性の解明の手法は、(社)電気化学会溶融塩委員会溶融塩賞の受賞に見られるように、国内外で高い評価を受けています。

固−液共存系における固相近傍の液相物性
  固体と液体とが共存する系は、固相含有率が高くなるとペースト、スラリーと呼ばれ工業的にも重要です。また、電気化学反応をはじめとする電解質溶液反応の多くは、反応場が固体と接している固液界面上にて進行することがほとんどといえます。電解質溶液系が電解質の溶存により水和構造等、通常のバルク(溶液内部)とは異なるミクロ的な異相系とみなせるのと同様に、固相との共存による固液界面近傍において液相が特異な物性や挙動を取ることは古くから知られていましたが、その詳細については未だ明らかにされていません。
 我々は電解質水溶液のみならず、水和物溶融体、溶融塩を液相とし、固体との共存によるイオン導電性、溶融挙動の変化について検討を行ってきました。その結果、固相表面の数nm〜数十nmの近傍において、バルクとは著しく異なる物性を示す特異な領域が存在し、イオンの錯体構造変化、電気伝導度の活性化エネルギーの変化、液相の融点の低下など、さまざまな異相共存場効果が見いだされてきています。
 特に溶融塩についての研究は、それが熱媒体、化学反応媒体として多くの用途に用いられており、近年では、融点が常温付近に認められる常温溶融塩(イオン性融体)の研究も開始しています。実際の溶融塩の利用形態は、例えば溶融炭酸塩形燃料電池の電解質に見られるように固相に溶融塩が含浸した形で用いられていることが少なくなく、異相が共存する状態での溶融塩の挙動や物性に関する研究成果は、工業界においても価値あるデータとして高く評価されており、上述の高濃度水溶液に関する研究と合わせて、溶融塩賞の受賞対象研究成果となりました。
 また、このテーマの一部は、財団法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)新規産業創造型提案公募事業研究開発プロジェクトとして共同研究を行いました(成果報告書 はこちらからダウンロードできます)。
 平成12年度より、学内研究プロジェクト「固−液共存系の物性・構造の解明とそのエネルギー変換への応用展開」に引き継がれています。

熱緩和分散(Relaxative Auto Dispersion: RAD)法による金属超微粒子複合体の調製
  近年、ナノサイズの金属及び半導体超微粒子が固体誘電薄膜中に分散した複合材料が情報・エレクトロニクス分野において注目されています。これらの複合材料は、超微粒子が示す種々のサイズ効果やマトリクスとの相互作用により種々の興味深い電気的、工学的性質を示すことかが知られており、新規電子工学材料への応用が期待されています。
 我々は、金属と強く相互作用するアミド結合を有するナイロン11蒸着膜を用いて、相変化に伴う再配向過程を利用した緩和分散法により各種金属超微粒子が分散した複合薄膜を作製し、膜の構造評価と電気伝導特性について検討し、金属超微粒子/高分子複合材料の工業的展開を図ってきました。特に金/ナイロン11複合系においては、金微粒子とナイロン11とがアミド結合を介して強く相互作用を有することから、この性質を利用し、膜厚8nmの極薄膜において、厚さ方向に1つの金ナノ粒子を配置し、100K(-173℃)において明瞭なクーロンステアケースを観測することに成功しています。単一電子デバイスへの適用が期待される、このような単一電子輸送現象が金属微粒子/有機高分子薄膜系で認められたのは、我々のグループが始めてであり、今後、これらの機能を応用したデバイス構築プロセスへの展開が期待されます。
 また、これらの研究における緩和分散過程の動的挙動の解明については、ドイツ連邦共和国のクリスチャン・アルブレヒト・キール大学工学部F. Faupel研究室との情報交換を1992年から進めており、その成果は平成12年度からの日独科学協力事業共同研究日本学術振興会)「熱緩和分散法による金属ガラス中への金ナノクラスターの分散機構の解明」に 展開されました。このテーマについては、再度日欧等科学協力事業共同研究(日本学術振興会・平成15-17年度)にて採択され、現在も共同研究を進めています。

液相析出(Liquid Phase Deposition: LPD)法による機能性金属酸化物薄膜調製
  機能性材料は、物質に由来する機能のみではなく、利用形態・用途に応じた様々な形状が要求されます。特に無機材料開発においては、ターゲットとする物質の合成時の初期(一次)形状が重要と考えられます。目的とした場所に目的とした機能を有する目的とした機能を有する材料を形成する「その場合成法」の技術(オンサイト・プロセス)が要求されるといえるでしょう。
 我々は、水溶液に基板を浸漬したマクロな固−液異相共存系において、液相中での配位子交換の平衡反応を利用し、高エネルギーを必要としない穏和な条件で、基盤上に各種の機能性を有する、酸化物薄膜もしくは酸化物前駆体薄膜を共存する固相表面に析出させる液相析出法(LPD法:Liquid Phase Deposition)について研究を進めています。その製膜には、水溶液中で生じている
1)金属フルオロ錯体(TiF62-, SiF62-等)の加水分解平衡反応
2)安定なフルオロ錯体形成する第3物質(アルミニウム、ホウ酸等)添加による反応1)のシフト
を利用するものであり、2)の反応でのF-イオンの消費による平衡反応の酸化物側へのシフトにより製膜されます。この反応により、すでに30種を越える様々な金属酸化物薄膜の合成に成功しており、液相析出法に関する国内外における研究においては、ほとんどの場合、我々の研究室からの成果が引用されるなど、国際的にも第一人者の立場を有していると自負しています。この製膜過程は気相反応を利用するCVDやスパッタ法とも異なり、特殊な装置も必要とせず、その製膜工程は非常にシンプルで、必要とするものは反応容器のみであることから、現在、工業界への技術移転も現在進行中であり、その指導的立場に立っています。
 本テーマについては、平成12-14年度および平成15-18年度において科研費・基盤研究(A)に、また経済産業省地域申請コンソーシアム、兵庫県COE等に採択され、現在、基礎研究と実用化研究の両面にわたって研究開発が進められています。

金属ナノ粒子を用いた形態依存性機能材料の創製
可視光の波長よりも小さな粒径を有する金属ナノ粒子の示す物性は、その粒子サイズ及び形状に強く依存し、バルク金属とは異なる興味深い性質を示すことが明らかとなっています。研究室では、これまで金属超微粒子複合体の調製に関する研究を通じて、バルクの相図では見られない結晶相を有する合金ナノ粒子の作製が可能であることを見いだしており、このことは今後の新たな金属微粒子材料の展開に大きく寄与することが期待されます。また、希土類錯体は光により励起され発光特性を示すことが知られていますが、この発光特性に及ぼす、金属ナノ粒子表面近傍における外部電場の増幅効果(表面増強効果)はその金属ナノ粒子の形態に大きく影響を受けます。この形態依存機能性に関する研究を行っています。

■溶液反応系を用いた無機材料の合成
 我々は電解質溶液に関する研究を通じて得られたさまざまな溶存種の微視的・局所的構造、さらには溶液内の高次構造がもたらす溶液内の長距離秩序性をいろいろな無機材料合成の反応に利用できると考え、水溶液からの合成法として様々な無機材料合成に適用を試みてきました。
 特に、超高温材料として知られ、高熱伝導性でありながら電気絶縁性が求められる窒化アルミニウムの合成においては、アルミニウムイオンの偏析および酸化を防止する方法として、アルミニウムキレート錯体を前駆体として利用し、窒化アルミニウムを低温焼成法にて合成する方法を見出しました。この手法は、従来、高温(1500℃以上)でなければ得られなかった窒化アルミニウムの焼成温度を劇的に低温化する手法であり、製造コストの低減、またアルミニウムの偏析が見られないことによる高絶縁性の実現に大きく寄与しました。
 この研究は、共同研究をおこなった(株)松下電工とともに、第50回科学技術庁注目発明に選定され、無機材料合成にかかわる反応制御に対して、前駆体となる溶液構造が密接に関係するという、学術的にも注目すべき成果として、国内外で高い評価を得ています。